レッスンWeb発表会-1

Bear’s paw Color Coordinate Lesson
「ぬのいろあわせ」配色レッスン.1
『オーシャンストーム(海の嵐)のタペストリー』
WEB発表会
全10作品を展示中です
指導・解説: 高野ますみ

 


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石川 ひで子 

《解  説》
製作前のイメージは「明るい」ものだったのに、 実際は暗い感じになってしまった、と
自己分析されたこの作品。
ご本人の反省とは裏腹に、 私はそれが却って良い方へ転がったのではないかと思います。
クッキリと濃く強調されたドーナツ型の赤は、 明るい朱色と暗いボルドーが混ざり合い、なんとも色っぽく、 まるで往年のハリウッド女優の口紅を想わせます。
合わせたブルーも少しグレイッシュで大人っぽく、 さまざまな赤の艶っぽい美しさを引き立てています。
中央のバラの花、ボルドーの大きな菱形の布の雰囲気、 ふち、裏布の持つムードも統一感があり、 フェミニンで華やかな、魅力的な仕上りだと思います。
柄の大小の使いこなしが上手く、特に大柄の間の取り方が絶妙で、 トリミングする力、空間意識に長けているのがわかります。
ひで子さんはキルト作りを始めてまだ2年ほど。
 ちょうど布集めが楽しくなってきた頃ですね。
これからもっともっとたくさんの「自分好みの布」に触れ、 いろいろな布合せを試して作り続けていくうちに、 この完成度が、たまたまそうなった偶然ではなく、 意図した通りの必然で作れるようになっていくことでしょう。

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「ブルー・赤」


IMG_8202島田 喜恵子

《解  説》
もうキルト歴も長く、ずっと私の教室に通って下さっている喜恵子さん。
いつも独特の色使いをされ、すでにちゃんとご自分の世界をお持ちなので(なのに、ご本人は自覚なし)毎回あまり口を挟まないように心がけています。
今回は、シーブルーとイエロー、アクセントは黒の英字。この「海の嵐」のタペストリーを作るにあたり最後まで「海」や「嵐」から離れることが出来なくて、との事でしたが、 まさしく明るいブルーがリゾート地の澄んだ海の色を、 中央の正方形と裏布が、深海の暗い海の様子を連想させます。
青味を帯びた分厚いガラスを通して、海の中をのぞいているような そんな感じがする作品です。
途中、角の4ヵ所の正方形の中に、比較的子ども向けの可愛い花柄を選ばれていたのを別の布に変えるお手伝いをさせていただきました。選択は、イエローに黒の英字の布。中途半端に入った子供っぽい布を排除した結果統一感がぐんと増して、ピリッとスパイスのように入った黒が全体のバランスを保っています。
今回も、喜恵子さん独特の色使い、キラキラと光を感じるシーブルーが美しく、青を冷たく感じない稀有な逸品です。

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「イエロー」


IMG_82001端  由加里

《解  説》
グリーンが大好きな由加里さん。この日も、 手編みのグリーンのニットでお越しになりました。(編み物がプロ級!)
初日、お持ち下さった布は、どれも強烈な個性と摩訶不思議な模様。その全てが、由加里さんの世界の中で生き生きと動き始めます。
鮮烈なライトグリーンと、何層にも重なるブルー系。 点と線、渦巻き、丸の連なり、私が一目見てイメージしたのは、DNAの二重螺旋構造。デジタルで未来的な感覚です。
自分らしいものを作るなら、まず自分の好きなモノを認識し、追求すること、大事なのは「ブレない自分」です。由加里さんはすでにそれをお持ちでした。そして私が出来ることは、それがちゃんと徹底されているかを見ること。
一か所だけ、由加里さんにしては消極的な、無難な感じの柄が入っていたのを別の布に変えていただきました。
結果、全てが由加里ワールド!まるでモダンアートを見るようなクールで神秘的なタペストリーが完成しました。 
ご本人はそれなりに苦労されたのかも知れませんがこのいさぎよさ、迷いのない個性には、断然惹きつけられるものがあります。 だからこれからもずっと持ち続けていって欲しい・・・
こういう作品のお手伝いが出来たのは本当に光栄なことです。

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表9柄使用/↑裏布/キルト糸「薄い緑」


IMG_82093西口 佳子

《解  説》
このタペストリーは、真ん中のブランコに乗る女の子が全てを牽引しています。
この布を中央に据えたことにより、その他の布はすべてこの子のために選抜されるわけです。
色も、この女の子に使われている色に限定されていくのですが、佳子さんはそれを軽々とクリア。
そしてさらに色だけでなく、布の持つ雰囲気、この、女の子の布の持つ「幼い可愛さ」を邪魔しない布だけが集められ、柄の無駄使いがひとつもありません。
主役の布の中に使われている色で構成するのは、 全体をまとめる為の常套手段ですが、色だけでなく、ムードを揃えるというのはさらに一段上級なテクニックで、 やってみると意外に出来ないものです。
佳子さんは、この可愛い布を、いつか使いたいと ずっと長い間あたためていたのです。
その大切な気持ちが、こんな可愛いものを作らせたのですね。
直すところもあまりなかったのですが、コーナーのローズガーデンに鮮やかな赤い正方形が出しゃばりぎみだったので もうひとつ四角を入れていただき、イチゴのプリントで さらにスイートでガーリーな雰囲気に徹していただきました。 大成功!!

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表11柄使用/↑裏布/キルト糸「ピンク」


IMG_82141関 眞子

《解  説》
私と同じく「布好き」で、とにかくたくさんの生地をお持ちの眞子さん。
そこからまず使う布を選り分けるのが一苦労。 闇雲に使いたい生地を探すのでは時間ばかりかかってしまいます。
そこで今回は ブルーとブラウンの2色使いを大前提に選別、ふるいにかけ、そこから個々の配置を決めていくというプロセスでした。
出来上った作品は、落ち着いていて上品、木綿の布であるにも関わらず、まるで高級な陶器や、シルクの曼荼羅を見るようです。 濃淡の付け方もバランスがとれていて、安定感があります。
さらに色の濃淡だけでなく、柄の密度も計算されていて、ギュッと詰まったところと解放されている部分の対比で見せているのも技ありです。
裏布も素敵でピッタリですね! 裏布が、表からの雰囲気を保持しているかどうか、実は作り手のセンスは、そういう所に出ます。
今回このレッスンを通して、かなり新しい発見があった様子の眞子さん。苦労したけれど、布選び、楽しんで下さったようです。たくさんの持ち札の中から、必要なものを選別していく目をもつこと、捨てるもの、残すものを決めていく、一か所変えただけで大きく変化する結果をイメージすることの難しさ、 それらを見事クリアした、会心の作になりました。

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表11柄使用/↑裏布/キルト糸「からし色」


IMG_036911海老原 芳子

《解  説》
赤、きいろ、みどり。この3色を使ってこんなに大人っぽいものを作れるなんて、正直驚きです。
主役の布、「地図の布」の色合いで全体をまとめてあるのですが、 グリーン系の生地の揃え方が、神業です。
ギンガムチェック、点描、花柄、水玉、糸巻きの色まで、全てが同じ色味、同じ彩度のグリーン。
グリーンと一口にいっても、いろいろなグリーンがあるのです。それを見分ける目、絶対音感ならぬ、絶対色感とでも言いましょうか。優れた「見る目」をお持ちとお見受けします。
ちょっと日本人離れした色使いのこの作品は、ロンドンの街を、地図を片手に歩いていたら、自分が小さくなって、レゴブロックの世界に迷い込んだようなイメージ。おもちゃの世界なのに、決して子供っぽくはない。
それは、作り手がそのように仕向けているからです。 芳子さんご本人は、いつもファッションがモノトーンで、お洒落でエレガント、真面目でがんばり屋さんで、でも、微妙におっちょこちょいでお茶目な女性。そんなお人柄が、全て作品に出ているのです。
作るものは、作り手そのもの。それそこが、このレッスンの最終目的だったので、この作品は、完璧なプロトタイプと言えます。
それにしても濁りのない色使いがキレイ!スパイシーイエローの無地の額縁はどこか北欧っぽくて、すごくお洒落ですね。
わたし的には、糸巻き→ギンガム→水玉の可愛さにノックダウンです!

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表9柄使用/↑裏布/キルト糸「イエロー」


IMG_02172片野 のぞみ

《解  説》
この作品を、私は一人で勝手に「アリスのタペストリー」と呼んでいました。第一印象が、『不思議の国のアリス』に出てくる「トランプの国」だったからです。
のぞみさんは今回、菱形の所に使った赤とグレーの大きいチェックとそれと接するリバティの朱色の花柄を持参されて、「好きなのに、どうやって使ったらいいのかわからなくて・・・・・」 と言いながら見せて下さいました。
確かに・・・・どちらもひとクセあって、なかなか難しい布です。しかも、のぞみさん自身が、淡くて可愛い雰囲気のものにも惹かれる、と心が揺れています。
でも、お持ちいただいた布たちを見ると、熟成されたダークな色味こそが、のぞみさんの根底に流れる「好き」のようでした。結局は、それを越えてまで自分を変えることは出来ないのだとお話しし、自信を持って好きなものを使ってみるようお薦めしました。
それからは、まるで呼吸が通ったようにすんなりと使う布が決まり、この、アリスのタペストリーが完成しました。
そこは、赤と黒、スイートとビターが同居するのぞみさんの世界、ファンタジックな魅力に満ちています。
こうして好きで温めていた布が、形あるものになり、途中、キルティングにピンクの糸を使ったので「可愛い色」への欲求も充たされ、楽しかったのだそうです。
わたしの個人的な好みでは、コーナーに使ったピンドットと額縁の生地との、 水玉!水玉!のリズム感がたまりません!

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「ピンク」


IMG_02301太田 静江

《解  説》
みなさん この作品のテーマは何だと思われますか?
そう。正解です。 『春』 !
これを見て、春を思い浮かべない方はいるでしょうか? 全ての人に同じイメージを抱かせる、それってプロの仕事です。 的確な表現力、ちょっとジェラシーさえ感じますね(笑)私も次は絶対この色で何か作ろうと決心したほどです。
でも、やはりここに至るまでには相当な苦労があり、静江さんご本人は、最後まで悩みに悩み、こことここを変えたらどうなる?と絶えず思いがめぐって手が止まってしまい、「どこかであきらめて、前に進みましょう」と私に説得される場面もありました。その葛藤の成果がこれなのです。
芽吹いた新緑のグリーン、柔らかなモッコウバラのイエロー、白く霞のかかった空気、風に揺れるケシの花。
目をつぶってその光景を思い描いていたら、ちゃんと裏側にその風景がありました・・・・という裏布選び、お見事です。
この作品では、パステル画のような美しい色使いに心惹かれますが、静江さんは最初、全体がぼんやりと淡いものを作ることに不安を感じていらっしゃいました。特に、ほかの方のしっかりコントラストのついた作品を見てしまうと その気持ちも理解出来ます。 でも、比較することは意味のないこと。そもそも、淡くてぼんやりとしていることは、決して「悪」ではありません。薄い色の中にも、ちゃんと濃淡はつけられます。
先入観を捨て、目指すイメージを表現することに専念し、不安を克服した静江さん。
完成後は清々しいお顔で、楽しかった工程は?の質問に「布選び」とのお答え。 嬉しい限りです。

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「グリーンと白」


IMG_0237鳴澤 輝子

《解  説》
のっけから、歳の話で恐縮ですが、輝子さんは丁度私の親の世代。お孫さんがすでに立派な社会人、という年齢です。だからなのか、このレッスンのお申込みの際も「私に出来るでしょうか・・・・・」と少し自信なさ気でした。
ベッドカバーを何枚も完成させているぐらいですから、もちろん何の問題もなく、2回目までのレッスンを終えたある日、「失敗してしまいましたの・・・・・」とお電話が。完成直前、ちょっとした勘違いで必要な部分を切ってしまったのでした。出来れば何とかそれを生かして修復出来ないかと対処策を思案していると「先生、やはりもう一度作ります。布まだありますから」とキッパリ。そして本当に、最初から全て作り直されたものが、この1枚です。
物作りに、失敗はつきもの。大切なのは、そこからどうやって気持ちを切り替えるか。常に前向きなへこたれない精神力。 作り続けるのに必要なのは、ただそれだけ。人生の先輩から学ぶことは多いです。
そんなエピソードを抜きにして見ても、どうでしょう、このふっくらと温かい色合い。みなさんも一度はこんな色の、夕昏れ時の空を見たことがあるはずです。ピンクを帯びたオレンジ色からパープルへのグラデーション、この色は、「あしたは晴れ」の合図です。美しいのになぜか切ない、そんな色、モネの夕日の絵の色ですね。
実はこのオレンジに傾いたピンクとパープルは、色相環で遠い位置にあり、なかなか難しい配色と言えます。それを、あっさりと媚びない布使いでさらりとかわしているところがとても上品です。優しく包み込むような色使い、見ていてホッとする癒しの作品になりました。

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「パープル」


IMG_0371小澤 葉子

《解  説》
当初、大きい菱形の所には、細かい小花プリントを使う予定でした。それはそれで、まあまあ、別に悪くもなかったのです。
裁断した布を並べていただいている時に、「試しにこれも切ってみたんですけど・・・・・」と、こちらを出され
完璧に、「わー!やられた~!」と胸がドキドキしました。
菱形の対角線に花の帯。ここにこれ持ってくるか!って感じで、もう、降参です。これはまさしく、シンメトリーの様式美、フランス庭園そのものではありませんか! 茶色が花壇の土、緑は植栽、芝生、池、噴水、バラの花。
「海の嵐」が、こんなに美しい景色に変化するなんて、思いもよりませんでした。
花柄が大好きな葉子さん。その扱いは、好きだからこそ真剣です。
額縁に見えている花が、絶妙にバランスよく入っているのでお聞きしてみると、「かなり苦労して、考えてとりました」とのこと。 やはり思った通り。ただ、何も考えず、適当に使ったら、こんなにきれいに花がバランスよく出るということは絶対に有り得ません。意識してこの位置に来るようにしたのだとすぐにわかりました。
こういう一見地味な部分、多くの人がサラッと流す部分に神経を使う、これをするとしないとでは、完成度は明らかに違うのです。
自然なバランスを意図的に保つ、そうやって主役を輝かせ、テーマを際立たせるのです。
そのための、目立たない苦労を厭わない、そういう姿勢がこの美しさを作り出しているのです。

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表10柄使用/↑裏布/キルト糸「ピンク」


IMG_03761《あとがき》

この「オーシャンストーム」の配色レッスンは、1998年に第1回目を行ないました。その時の、大もとの私の見本作品がこれです。
もうかなり色も褪せ、今見ると、反省点が多すぎて、並べるのもお恥ずかしいのですが、ここには、お店の経営と子育てに頑張っていた頃の私がいます。未熟だけれど、自分らしいなぁと思える大切な1枚です。
このレッスンを通して、あらためて物作りの面白さ、難しさを再認識しました。作り手が違うとこんなにも違うものが出来る、驚きと感動で、興味がつきません。

ご参加の皆様、素晴らしい作品、本当にありがとうございました
2016年春

髙野ますみ


レッスン概要
「ぬのいろあわせ」配色レッスン 『オーシャンストームのタペストリー』

☆金曜コース:2016年①1月22日(金) ②2月5日(金) ③3月4日(金)
☆土曜コース:2016年①2月27日(土) ②3月12日(土) ③4月16日(土)
いずれも時間は14:00~16:00の2時間

image121講習内容
①トップの布選び 裁断の要点説明など

ご自宅で布を裁断して②にご持参いただきます
↓14日間
②トップの布選び続きと微調整 裏布選び 仕上げまでの要点説明など

ご自宅で作品を仕上げて③にご持参いただきます
↓約30日間
③自己分析や感想などを伺う時間 写真撮影と楽しいお茶の時間など
※布選び・カラーコーディネートがメインの内容です

 

何か物を作るなら、自分らしいものを作りたい・・・ いつも、そう思っているのです。
でも、「自分らしさ」を自分自身で見つけるのは、意外とむずかしいもので、私も、毎回毎回、悩んでしまいます。
皆さんも、たくさんある布から自分らしいものを見つけ出して、イメージ通りの色や柄に置き換えて表現していく、それが出来るのは、もともと才能がある人だけだと、あきらめていませんか?
私は、これは一種の「慣れ」だと思います。
たくさんの布を見て触って、色や柄を組み合わせるシュミレーションを何度も重ねて、どう感じるかを知ることで、だんだんと自分の求める世界が見えてきます。
このレッスンでは、ほかの人と、同じサイズ、同じデザインで作ることを通して、「自分にしか出来ない布選び色合わせ」を見つけていくトレーニングをしていきます。
一人では気が付かない思いがけない発見が、 必ずあると思います。

講師:高野ますみ

 

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